英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第9回

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次回英文(第10回)
She took down a jar from one of the shelves as she passed: it was labeled ‘ORANGE MARMALADE,’ but to her great disappointment it was empty: she did not like to drop the jar, for fear of killing somebody underneath, so managed to put it into one of the cupboards as she fell past it.

メモ① hung upon pegs

「地図や絵が釘に掛けられている」と聞くと、どこに「引っ掛ける部分」があるのかと疑問に思うかもしれません。これは、(額に)紐をつけて掛け釘に引っ掛けているものと考えられます。

『アリス』には、ジョン・テニエルによる挿絵の他にも、多くの挿絵が存在し、この「うさぎ穴落下シーン」も描かれています。そこでは、地図や絵が紐で釘に掛けられています。
(参考)
ハリー・ファーニス(画) (マーティン・ガードナー ルイス・キャロル 高山宏訳 『詳注アリス 完全決定版』 亜紀書房 p.66)
ブランチ・マクマナス(画) (『ユリイカ 4月号 特集 ルイス・キャロル』 青土社 1992 p.125)
ウィリー・ポガニー(画) (同上)

メモ② 【発展】【△】make out what she was coming to

ここでは、“make out what she was coming to” という表現について考えていきます。

本文:First, she tried to look down and make out what she was coming to, but it was too dark to see anything:

最初に、① make out と ② come to という表現について確認しておきます。

① make out [Collins COBUILD]
(a) If you make something out, you manage with difficulty to see or hear it.
(b) If you try to make something out, you try to understand it or decide whether or not it is true.

② come to
(a) ~に来る、(聞き手の方)に行く (b) ~に着く (c) 〈事・状態・事態〉になる

例文b. Go straight until you come to a crossroads.
(交差点に行き着くまでまっすぐ行きなさい)[ジーニアス]
例文c. We worry about what this country is coming to.
(この国がどうなるか心配だ)[ジーニアス]

以下では、解釈(A)=①a+②b、解釈(B)=①b+②cという2つの読みを見ていきます。

解釈(A) ①make out=(a) “manage to see” + ②come to=(b) 「~に着く」

この解釈では、 “tried to make out what she was coming to” は「彼女[自分]がどこに着くのかを見よう[見きわめよう]とした」という意味になります。

なお、whatの意味は「何」ですが、場所(名詞)を問う場合、対応する日本語は「どこ」になります。

What’s the capital of Canada?
(カナダの首都はどこですか) [ウィズダム]

解釈(B) ①make out=(b) “understand” + ②come to=(c) 「〈事・状態・事態〉になる」

この解釈では、“tried to make out what she was coming to” は「彼女[自分]がどうなるのか理解しようとした」という意味になります。

動画内の訳例は解釈(A)に基づいています。ただし、『アリス』の作者は、解釈(B)の意味も含ませて、この表現を用いているかもしれません。

この箇所について、訳書を見ておきましょう(下線は引用者によるものです)。

1.まず下のほうを見て、落ちていくさきを見さだめようとしましたが、暗すぎてなにも見えません。
高橋康也・迪訳 (河出文庫)

2.まずは下を見て、これからどうなるか知ろうとしましたが、暗くて何も見えません。
芦田川祐子訳 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)

1は解釈(A)、2は解釈(B)となっています。なお、全ての訳書を確認したわけではないのですが、大半が解釈(A)でこの箇所を読んでいるようです。