英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第10回

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次回英文(第11回)
‘Well!’ thought Alice to herself. ‘After such a fall as this, I shall think nothing of tumbling down-stairs! How brave they’ll all think me at home! Why, I wouldn’t say anything about it, even if I fell off the top of the house!’ (Which was very likely true.)

メモ① jarとbottle

今回 “jar” という語が登場しました。後の回では “bottle” という語が登場します。どちらも「びん」と訳すことがある語ですが、意味の違いはあるのでしょうか? 辞書を引いてみましょう。

① OALD
[jar] a round glass container, with a lid (= cover), used for storing food, especially jam, honey, etc.

[bottle] a glass or plastic container, usually round with straight sides and a narrow neck, used especially for storing liquids

② LDOCE
[jar] a glass container with a wide top and a lid, used for storing food such as jam or honey, or the amount it contains

[bottle] a container with a narrow top for keeping liquids in, usually made of plastic or glass

ジャム、ハチミツなどを入れる「(広口の)びん」が “jar” で、液体を入れる「(くびのある)びん」が “bottle” とみておけばよさそうです。今回登場した「びん」は、「オレンジマーマレード」用なので “jar” がぴったりなわけです。

メモ② 【発展】ラベルが貼られた空のびん

[本文] it was labeled ‘ORANGE MARMALADE,’ but to her great disappointment it was empty:
(ビンには『オレンジ・マーマレード』というラベルがはってありました。でも、がっかりです。中はからっぽでした)

この場面について、『アリス』の訳者でもある高橋康也は次のような解釈をしています。

オレンジ・マーマレードの入っていない瓶に貼られたオレンジ・マーマレードという札――言いかえれば、実体のない名称、ものによって裏付けられない言葉、意味されるものを欠いた意味するもの。そう、私の見当をありていに言ってしまえば、このエピソードは、アリスがこれから落ちてゆく先が何よりも言語的変調ないし異変の世界であることを、端的に予告するものにほかならないのだ。アリスが「がっかりした」のは必ずしもマーマレードを舐めたかったからではない。言葉がものによって裏づけられ、意味するものが意味されるものを伴っている(と信じられている)「地上」の日常世界の住人として、当然の言語的期待が満たされなかったから、「がっかりした」のだ。
高橋康也 『ノンセンス大全』 晶文社 1977 p.91 (強調原文。ただし傍点を下線に変更)