英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第11回

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次回英文(第12回)
Down, down, down. Would the fall never come to an end? ‘I wonder how many miles I’ve fallen by this time?’ she said aloud. ‘I must be getting somewhere near the centre of the earth. Let me see: that would be four thousand miles down, I think—’  次回に続く

メモ① they の使い方

theyは基本的に、すでに話題に出た「複数の人・物・事」の代わりに用いられます(「私たち(we)」「あなたたち(you)」は除く)。その基本用法を押さえたうえで、次のような使い方にも注意しましょう。

(1)they が話題に出た「単数形」の名詞を指す場合

brother(兄、弟)には「男性」、sister(姉、妹)には「女性」という性別に関する情報が含まれます。そのため対応する代名詞はそれぞれ、brother → he/his/him、sister → she/her/herとなります。一方、person, everybody, somebody などの名詞は、それ自体には性別の情報が含まれません。このタイプの名詞(単数)に対して、they/their/them が用いられることがあります。この場合、theyが「複数名詞」を指すという原則に反して、「単数名詞」を指すことになるので注意が必要です。上記のような名詞の代わりとして he or she, she or he などが用いられることもありますが、they が用いられることが多くなっているようです。

(2)they が「人々」を意味する場合。

theyが「人々」の意味で用いられることがあります。一般に「人々」を表す場合もあれば、「ある地域・場所・組織などの人々」を表す場合もあります。

本文:How brave they’ll all think me at home!

この they が指すものを、本文の前にある箇所から探しても見つかりません。ここでは「人々」という意味で they が用いられています。また、at home とあることから、ここでは一般的な「人々」ではなく、「アリスの家の人たち」を指していると考えられます。

メモ② it の使い方

it の基本的な使い方は、すでに話題に出た(前にある)単数名詞を指すのに用いるというものです。ただし、「後にあるもの」を指す場合もあります。

it [後に述べるものを先取りして、またこれから述べることを指して] これを、それは
1. I hate to say it, but he is not the right man for the job.
(こんなことは言いたくないですが、彼はその仕事の適任者ではありません)
2. If you find it in the room, bring me the new stapler.
(部屋で見つけたら、あの新しいホッチキスを持ってきてくれ)
[ジーニアス] (番号、下線は引用者)

1の it は but 以下の内容を指しています。また、2の it は the new stapler(あの新しいホッチキス)を指しています。いずれも「後」にあるものを指していることを確認してください。

では、『アリス』本文に戻りましょう。

本文:I wouldn’t say anything about it, even if I fell off the top of the house!

ここでは用いられている it は、「前」にあるものを指すのではなく、「後」の even if に続く内容を指しています(=家のてっぺん[屋根]からの落下)。

メモ③ 動詞の「過去形」

動画内で説明したように、英語の動詞「過去形」には、文字通りに「過去」を示すものだけでなく、「非現実(性)」を示すものがあるので注意が必要です。この過去形の2つの使い方は、remoteness(遠隔性)というキーワードで統一的に説明されることが多いようです。

過去とは、現在から見たら「遠ざかった世界」であるわけだが、仮定は現実から見て「遠い世界」であり、両者は意識の上で結びついても不思議はない。二つを合わせて考えると、英語の過去形は「隔たり」や「遠さ」(remoteness)を表すもので、まとめて、「遠く隔てられた世界」を表すという見方ができる。すなわち、過去は現在から時間的に遠く、仮想世界は現実から遠い。
溝越彰 『時間と言語を考える』 開拓社 2016 p.103

メモ④ 「語り手」のコメント

動画内で説明した通り、 “Which was very likely true.” の部分は直前のアリスの発言(「たとえ屋根の上から落ちたって、何も言わない」)に対する「語り手」のコメントです。「そんな高いところから落ちたら、死んでしまって口もきけないでしょう」という語り手によるツッコミになっています。この箇所につけられた『詳注アリス』(マーティン・ガードナー)の注を見ておきましょう。

ウィリアム・エンプソンは著書『牧歌の緒変奏』中のルイス・キャロル論で、これが『アリス』物語に出てくる死主題のジョークの第1号であると指摘している。このあと、続々とでてくる。
マーティン・ガードナー ルイス・キャロル マーク・バースタイン 高山宏訳 『詳注アリス』 亜紀書房 2019 p.67