英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第18回

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今回の英文(第18回)
Down, down, down. There was nothing else to do, so Alice soon began talking again. ‘Dinah’ll miss me very much to-night, I should think!’ (Dinah was the cat.)

次回の英文(第19回)
‘I hope they’ll remember her saucer of milk at tea-time. Dinah, my dear! I wish you were down here with me! There are no mice in the air, I’m afraid, but you might catch a bat, and that’s very like a mouse, you know. But do cats eat bats, I wonder?’

メモ① the

ここでは、the の使い方について見ていきます。最初に、学習参考書の記述を確認しておきましょう。ある本では、定冠詞(=the)の基本的用法として以下の5つを挙げています。

(1)前に1度出た名詞に2度目からつける。
(2)文脈やその場の状況からそれとわかる名詞につける。
(3)常識的にただ1つしかないものにつける。
(4)修飾語句がついて特定のものに限定されている名詞につける。
(5)〈the+固有名詞〉
綿貫陽 マーク・ピーターセン 『表現のための実践ロイヤル英文法』 旺文社 2006 pp.371-372 をもとに作成

このように、「基本」とされる用法だけでもかなりの数があります。しかし、同じ “the” という語を用いているわけですから、何か共通点がありそうです。

the の機能に関する文献は数多くあるが、そのほとんどは「定性」について論じたものである。英語の定性に関するこれまでの標準的な見解は、(ⅰ)聞き手の知っていること、(ⅱ)先行文脈から引き継いできたことに関する話し手の査定、すなわち、聞き手にそれとわかるかどうかという判断によってtheの有無が決まるというものである。言い換えると、theにはいろいろ用法があるが、すべての前提として「あなたにはどれかわかると思う」(I assume you know which one.)という話し手の判断がある。 
安武知子 『コミュニケーションの英語学』  開拓社 2016 kindle版 第5章4 下線は引用者

“the” の使い方についてまず押さえるべきポイントは、 the の使用の際、「『あなた(=聞き手)にどれかわかると思う』という話し手の判断」があるという点です。
では、そのことをふまえて『アリス』本文に戻りましょう。 “the cat” に注目してください。

本文:‘Dinah’ll miss me very much to-night, I should think!’ (Dinah was the cat.)

この場面以前に「猫(cat)」は登場していませんので、すでに話題に出た cat を表して “the cat” となっているわけではありません。ここでは、書き手が文脈・状況から「どの猫なのかあなた(=読み手・聞き手)にわかる」と判断したため “the cat” を用いていると考えられます。

文脈を確認しましょう。「ダイナ(Dinah)は、今夜わたし(=アリス)がいなくて寂しく思う」ということから、「ダイナ」とはアリスの家にいる存在者である予測できます(この段階では、読み手はふつう、ダイナのことを「人」だと考えるでしょう)。この後に 「ダイナは cat」という情報が加えられています。読み手は、「ああ、ダイナというのは猫なのね」と思い、さらに「どの猫か?」といえば、「アリスの(家で)飼っている猫」だと考えることでしょう。そのため、ここでは the が用いられていると思われます。