次回英文(第2回)
So she was considering, in her own mind (as well as she could, for the hot day made her feel very sleepy and stupid), whether the pleasure of making a daisy-chain would be worth the trouble of getting up and picking the daisies, when suddenly a White Rabbit with pink eyes ran close by her.
メモ① bank
bankは「銀行」という意味でおなじみだと思いますが、第1回に登場したbankは「土手、(川)岸」という意味です。1つの単語には通常、複数の意味があるので注意が必要です。また、同じ綴りであっても、語源が別で、異なる意味を持つという場合もあります(→bank)。次の動画シリーズも活用してください → 【英単語プラス】 多義語・同形異義語
なお、「オックスフォードあたりを流れている川の両岸(banks)は水面より少し高くなっている程度」ということです(ルイス・キャロル 安井泉訳・注 『対訳・注解 不思議の国のアリス』 研究社 2017 p.12)。
メモ② the book her sister was reading
本文で登場した「名詞と説明」について、補足しておきます。まず、「型」と具体例をいくつか見ておきましょう。
[名詞←説明] 名詞(A)←主語+述語+〈穴〉
例1. the house he lived in 「彼が住んでいた家」
例2. the house he bought 「彼が買った家」
例3. the book I bought yesterday 「私が昨日買った本」
日本語と英語で語順が逆になっている点に注意しましょう。英語では、名詞(A)を説明する部分(名詞にかかる部分)である「主語+述語+〈穴〉」が名詞の後に置かれています。
〈穴〉という記号について説明します。これは、あるべき名詞が欠けている箇所を示しています。例1を見てください。通常、live inという表現の後には、“live in an apartment(アパートに住む)”、“live in Japan(日本に住む)”のように「名詞」が置かれます*。しかし、例1では “lived in” の後に名詞がありません。このように、あるべき名詞が欠けていることを、ここでは「〈穴〉がある」と呼んでいます。
「名詞(A)+主語+述語+〈穴〉」という型が当てはまる場合は、この〈穴〉を名詞(A)で埋めると意味の通る英文ができます。その英文を「元になる文」と呼ぶことにします。例1の “the house he lived in 〈穴〉” については、名詞(the house)で〈穴〉を埋めると、he lived in the house(彼はその家に住んでいた)という「(意味の通る)元になる文」ができます。では、例2・3についても同じように、〈穴〉と「元になる文」を確認しておきましょう。
例2. the house he bought 〈穴〉→元になる文 he bought the house(彼は家を買った)
例3. the book I bought 〈穴〉 yesterday →元になる文 I bought the book yesterday(私は昨日本を買った)
本文で登場した “the book her sister was reading” はこの型に当てはまります。was readingの後に〈穴〉があり、そこに名詞the bookを入れることができます。〈穴〉を埋めた「元になる文」は、her sister was reading the book(彼女の姉は本を読んでいた)となります。
英文を読んでいるとよく登場する型なので慣れておきましょう。名詞の直後に「主語+述語」が続いているようであれば、この型が当てはまる可能性が非常に高いと考えてください。
*live inが「住み込みで働く」という意味で用いられている場合は、inの後に名詞は置かれません。ただし、live in 名詞(~に住む)の方がよく用いられる表現です。
メモ③ had peeped into ~
had -ed形は、「過去のある時点より前の領域の出来事・事態が、その時点と何らかのつながりがある」ことを表します。本文の該当箇所は “had peeped into” です。
本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book ~
冒頭で、「アリスは退屈し始めていた(Alice was beginning to get ~)」という過去のシーンが描かれています。それに続く文の “had peeped into ~(=had -ed形)”は、その冒頭の時点よりも前に「1、2度本をのぞき込んだ」ということを示しています。アリスには「何もすることがなかった」とありますが、「本(を読む)」という案はそのときすでに検討済み(で不採用)だったわけです。
メモ④ what is the use of a book~?
アリスの最初の発言は “what is the use of ~?(~は何の役に立つの?)” というものでした。この文は、疑問文の形をしていますが「答え」を求めているのではなく、「~は役に立たない」ということを反語的に述べたものです。このような表現は「修辞疑問(rhetorical question)」と呼ばれています。
rhetorical question [文](修辞疑問) 形式上は疑問文だが、意味上は平叙文に等しい疑問文。すなわち、自分の述べたいことを反語的に疑問文の形で表したもの。例えば、Who knows? (=No one knows.) / Who does not know? (=Everyone knows.)など。
寺澤芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社 2002 p.569
なお、このuseは名詞(発音注意 /juːs/)で「有用(性)、役立つこと、効用」という意味です。この名詞useを用いた、「It is no use do-ing形/There is no use (in) do-ing形 (~してもむだだ)」という表現が今後、『アリス』本文で登場します。ここで予習しておきましょう。
メモ⑤【発展】【△】 ‘and what is the use of ~’ の and
動画第1回の英文には2つのandが登場します。1つ目のand(=and of having ~)は動画内で解説した通り、A and Bという形で文法的に対等なものをつなぐ働きをしています。こちらは、andの基本的な使い方です。それに対して、2つ目のand(=‘and what is ~)は見たところ別の使い方をしているようです。こちらのandはどのような用法なのでしょうか? この問題を考える上で、以下が参考になります。
andの機能といえば、関連する複数の物や事柄を並べる、前件に何かを付け加えるというものがまず思い浮かぶ。しかし、andが談話の流れの転換点になることがある。たとえば、物語を語る際に、セリフ(直接話法)から地の文へ、あるいは地の文からセリフ(直接話法)へと転換する時にandが用いられる。*
松尾文子 「日本語では表現されない談話標識and」 『梅光言語文化研究』 (2) 2011 p.11
ここで、『アリス』本文に戻ってみましょう。
本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’
問題にしている2つ目のandは、冒頭から続く「地の文」が終わり(Alice was ~ in it)、アリスのセリフ(ここでは「心の中のセリフ」)が始まるところで用いられています。これは、上記[引用]にある「地の文からセリフ(直接話法)へと転換する」時に用いられるandと考えられます。
*松尾(2015)では、このandが「語りにおけるand①」「語りにおけるand②」とさらに細かく分類されています。詳細は、松尾文子・廣瀬浩三・西川眞由美(編著) 『英語 談話標識用法辞典』 研究社 2015 pp.175-176を参照。