英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第13回

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次回英文(第14回)
Presently she began again. ‘I wonder if I shall fall right through the earth! How funny it’ll seem to come out among the people that walk with their heads downwards! The antipathies, I think—’ (she was rather glad there was no one listening, this time, as it didn’t sound at all the right word)

メモ① several things of this sort

ここでは、“A of B”の使い方について見ていきます。本文の該当箇所はこちらです。

本文:Alice had learnt several things of this sort ~

“A of B” は通常、「AのB」ではなく、「BのA」という意味になります(例:the roof of the house「家の屋根」)。英語と日本語でA・Bの順番が逆になります(A of B/BのA)。上記の、“several things of this sort”も原則通り、「この種のいくつかのこと」という意味になります。では、以上をふまえて “sort(種類)” を辞書で引いてみましょう。

「この種の本」 this sort of books = books of this sort
[ジーニアス]

注目したいのは、 “this sort of books(この種の)” という言い方です。上で述べたように、 “A of B” は原則として、「BのA」という意味で、 “A” が「中心」で、 “of B” は「説明(≒~の)」の働きをするカタマリになります。しかし、 “this sort of books(この種の本)” では、Bにあたるbooksの方が「中心」になり、this sort of(この種の~)が「説明」の働きをしています。このように、 A of Bという型は、例外的にBが「中心」となる場合があるので注意が必要です。例をいくつかあげておきます。

1. an angel of a child (天使のようなかわいらしい子供
2. a bit of fun (ちょっとした楽しみ
3. an abundance of natural resources (豊富な天然資源
4. a lot of books (多くの
5. a piece of paper (1枚の
6. hundreds of people (数百人の人々
1~2=リーダーズ英和辞典 3=ジーニアス英和大辞典 4~6=オーレックス英和辞典 (下線は引用者)

なお、『英語の語法研究・十章』(渡辺登士 大修館書店)の第5章(N2が主要語となる ‘N1 of N2’ 連語)には、上記のようなパターンの例が多く掲載されていて勉強になります。

メモ② school

ここでは、schoolという語に注目して、『アリス』(1865年刊)の書かれた時代の英国について見ていきます。「子供が学校(school)で学ぶ」ということは、現代日本の視点からは当たり前のことですが、『アリス』の時代の英国ではどうだったのでしょうか?
英国において初等教育の義務化がなされたのは、『アリス』出版の数年後、1870年のことです(第1次グラッドストン内閣で初等教育法が制定)。それ以前の状況については以下が参考になります。

なおここで、民衆の初等教育について触れておくと、イギリスでは17世紀の末葉来、被支配階級の民衆を対象とする初等教育が宗教団体によるヴォランタリな慈善事業として行われてきた。この慈善事業としての初等教育は、19世紀にはいって1811年に国教会系の国民協会(National Society)が、1814年に非国教会系の内外学校協会(British and Foreign School Society)が結成されて以降よりいっそう国民のあいだにひろがり、1858年には、国教会系の学校がイギリス全体で約2万校あって200万人の児童を、また非国教会系の学校が約3000校あって36万人の児童を、それぞれ教育するまでになった。今のべた1870年の初等教育法は、これらの宗教団体の経営する学校がない地区に公費による初等教育学校の設立を定めたもので、その意味でイギリスにおいて現代的な公教育(=義務教育の実現)をスタートさせた画期的な法律であった。
村岡健次 『近代イギリスの社会と文化』 ミネルヴァ書房 2002 p.63

このように、『アリス』の時代(初等教育法制定以前)においても、かなりの数の子供が学校で教育を受けていたわけです。物語内の少女アリスのように、学校で学んだことを(得意気に)語る子供は、実際に多くいたのではないかと思われます。
ただし、当時の子供たちが置かれていた状況は現在とは異なっていました。

もっとも、労働者独自の教育運動、あるいは、中産階級が宗教的慈善としておこなってきた教育には自ずと限界がある。一言で言うと、それは、民衆教育が労働との両立を前提としていたことである。(中略)労働者の家庭で家計収入の実質的な戦力であった10歳前後の子どもたちを学校に縛りつけておくことなど土台無理な事であった。実際、子どもたちの大半が、家事や子守、工場労働の合間を縫うように、つかのま教室に顔をのぞかせていたにすぎない。それゆえに、仕事や病気、あげくの果てには学校に着ていく洋服がないとの理由で、多くのこどもたちが就学を中断せざるをえなかった。
井野瀬久美惠 『子供たちの大英帝国』 中央公論社 1992 pp.115-116 (ただし傍点を下線に変更)