英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第8回

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次回英文(第9回)
First, she tried to look down and make out what she was coming to, but it was too dark to see anything: then she looked at the sides of the well, and noticed that they were filled with cupboards and book-shelves: here and there she saw maps and pictures hung upon pegs.

メモ① like a tunnel

本文で、“like a tunnel”という「たとえ(直喩)」が用いられています。tunnelという語に注目して、『アリス』(1865年刊)が書かれた時代の英国について知識を増やしておきましょう。『アリス』の訳者でもある高山宏は次のように書いています。

問題は地下である。舟運推進のため運河を掘るうち、英国のトンネル掘進のノウハウが蓄積されていたが、何と言っても天才的技術者、M・I・ブルネル考案のシールド工法の登場が決定的であった。帯水地層にも、土圧による陥没の危険なく、いくらも穴があけられるこの方式のお陰で、テムズ川の河底トンネルの構想が可能となった。こうして1825年に構想されたテムズ河底トンネルは42年に完成、翌年から供用に付されている。
(中略)
そして先に述べたように、1863年、世界最初の地下鉄がパディントン~ファリンドン・ストリート間の約6キロを走行した。思えば、その少し前、1859年から始まったロンドンの下水道整備が65年をもって一段落している。
こうした〈下〉への強烈な関心を抜きにしては、たとえば『不思議の国のアリス』(1865)ひとつ書かれえなかった、とぼくは思う。
高山宏 『テクスト世紀末』 ポーラ文化研究所 1992 pp.213-214

メモ② the well

単語は知っているが英文の意味が取れない場合の原因の1つとして、英文で用いられている単語が、自分の知っている意味とは異なる意味で用いられているというケースがあります。今回、次のような英文が登場しました。

本文:the well was very deep

wellは「よく、上手に」という「副詞」でおなじみでしょう(例:She sings well. 彼女は歌がうまい)。しかし、本文のwellは “the well was ~” とtheが前に付いて、wasが後に続いていますので、「副詞」ではなく「名詞」と考えられます(主語になっています)。そこで、辞書でwellを調べると、名詞で「井戸」という意味が載っています。「井戸がとても深かった」となり、文の意味も通ります。
1つの単語には通常、複数の意味があるので注意が必要です。また、同じ綴りであっても、語源が別で、異なる意味を持つという場合もあります。語彙力向上に、こちらの動画のシリーズも活用してください → 【英単語プラス】 多義語・同形異義語
(なお、wellについては、第7回にa very deep well「とても深い井戸」という表現が登場しています)

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第7回

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次回英文(第8回)
Either the well was very deep, or she fell very slowly, for she had plenty of time as she went down to look about her, and to wonder what was going to happen next.

メモ① oneself

本文で、 “stop oneself(止まる)”、“find oneself do-ing形(~していることに気づく)” という表現が登場しました。ここでは、oneself(=再帰代名詞)について見ていきます。

oneselfは「自分自身」を示す語で、主語に合わせて形が変化します。
I/we → myself/ourselves
you/you → yourself/yourselves
he, she, it/they → himself, herself, itself/themselves

「自分自身を[に]」が、訳語に現れない場合も多いので注意が必要です。

  1. She looked at herself in the mirror.
    (彼女は鏡に自分の姿を映して見た) [オーレックス]
  2. He seated himself beside her.
    (彼は彼女のそばに着席した) [ウィズダム]

1に関しては、「自分(自身)を見た」となりますが、2は「自分自身」を訳語に入れると不自然になります。動詞seatは「~を座らせる」という意味ですが、seat oneselfだと「座る」となります。このように「自分自身」が訳語に現れないタイプの表現をいくつか見ておきましょう。
□ enjoy oneself 「楽しむ」
□ help oneself to ~ 「~を自由にとって食べる[飲む]」
□ hurt oneself 「けがをする」

I enjoyed myself at the party.
(パーティーで楽しく過ごした) [オーレックス]
Help yourself to the cookies.
(クッキーを自由に取って食べてください) [新編 英和活用大辞典(研究社)]
He fell down and hurt himself.
(彼はころんでけがをした) [ジーニアス]

以下は、『アリス』の1章に登場する表現です。
□ say to oneself ~ 「~と心の中で思う」(場合によっては「ひとりごとを言う」) 
□ find oneself +場所[副詞相当表現] 「〈予期せぬ場所〉にいると気づく」 

I said to myself, “This is awful.”
(「これはひどい」と私は思った) [ウィズダム]
I found myself in the midst of a forest. 
(気がつくと森の真ん中にいた) [ウィズダム]

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第6回

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次回英文(第7回)
The rabbit-hole went straight on like a tunnel for some way, and then dipped suddenly down, so suddenly that Alice had not a moment to think about stopping herself before she found herself falling down what seemed to be a very deep well.

メモ① 【発展】be to

“be動詞 to do-原形”という表現について補足をしておきます。これは「助動詞 do-原形」と似た働きをする表現で、様々な使い方があります。
まず、“to do-原形”が持つ「未来(の行為)に向かう」という基本性質を頭に入れましょう。そうすると、“be動詞 to do-原形”が「(これ[それ]から)~する(ことになっている)」という意味になることが理解できます。そこを核と捉え、様々な意味の広がりを見ていくとよいでしょう。では、辞書を引いてみます(読みやすいように、用例等は省略しています)。

□ be to do-原形

① ジーニアス
a. [予定]~することになっている(話し言葉ではwillの方がふつう)
b. [義務]~すべきだ(shouldの方がふつう)
c. [可能][通例否定文で]~できる(can[could]の方がふつう/to be doneを従える)
d [運命][通例過去時制で]~する運命になっている(wouldの方がふつう)
e. [意図][条件節で]~したいと思うなら(be going toの方がふつう/帰結節はmustなどが用いられる)

② ウィズダム
a. [予定]~する予定である(公式の予定・約束などで好まれる)
b. [義務・指示]~すべきである(公式の義務・指示などで好まれる/否定文は禁止を意味する)
c. [意図][条件節で]~したい、~するつもりである
d. [可能][通例否定文・条件節で]~できる(通例受身形不定詞と共に)
e. [運命][通例過去形で]~する運命だ

③ OALD
a. [be to do something] used to say what must or should be done
b. [be to do something] used to say what is arranged to happen
c. [be to do something] used to say what happened later
d. [be not, never, etc. to be done] used to say what could not or did not happen
(③の記号a~dは引用者によるものです。なお、ここで用いられている “used to say ~” は「~を言うのに使われる」ということを表しています。used to do-原形「以前~した[だった]」という表現ではないので注意しましょう)

これらは、おおむね同じような分類をしています。では、『アリス』本文に戻り、どれが当てはまるのかを考えてみましょう。

本文:In another moment down went Alice after it, never once considering how in the world she was to get out again.

文意を考えると「可能(~できる)」で取るのがよさそうですが、上記の各辞書での記述が気になります。「可能」を示す使い方について、これら3つの辞書は、ほぼ同じ説明をしています(→否定+toの後は「受身」)。ジーニアスは「c. 通例否定文で/to be doneを従える」、ウィズダムは「d. 通例否定文・条件節で/通例受身不定詞と共に」、OALDは「d. be not, never, etc. to be done」と記述しています。このような特徴は、『アリス』本文の使い方には当てはまらないようです。

次に、LDOCEを調べてみましょう。

④ LDOCE (下線は引用者)
[be to do something] 〈formal〉
a. used to talk about arrangements for the future
b. used to give an order or to tell someone about a rule
c. used to say or ask what someone should do or what should happen
d. used to ask how something can be done
 How are we to get out of the present mess? (dの用例)

注目すべきは (d) です。「あることがどのようになされ得るのか[どうやったらできるのか]を尋ねるのに用いられる」とあります。本文の “consider(ing) how in the world she was to get out again” はこの用法がうまく当てはまりそうです。意味は「いったいどのようにして彼女が再び出られるのかを考える」となります。
①~③の辞書で説明されている「可能」とは、異なる種類の「可能(どうやったら可能なのかを尋ねるときに用いられる)」と考えると、『アリス』本文の “be動詞 to do-原形” はうまく解釈できそうです。

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第5回

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次回英文(第6回)
In another moment down went Alice after it, never once considering how in the world she was to get out again.

メモ① see it pop down ~

seeの使い方について補足をしておきます。

本文:see it pop down a large rabbit-hole  

it は「ウサギ」を指しています。上記は「ウサギが大きなうさぎ穴に飛び込むのを見る」という意味です。この see の使い方を一般化すると「see A do-原形(Aが~するのを見る[~するのが見える])」となります。他の形と合わせて整理しておきましょう。

  1. see A do-原形 「Aが~するのを見る[するのが見える]」
  2. see A do-ing形 「Aが~しているのを見る[しているのが見える]」 【途中】
  3. see A -ed形 「Aが~されるのを見る[されるのが見える]」 【受身】

用例を見ておきましょう(英文は[ジーニアス])

  1. We saw him walk across the street.
    (彼が通りを横切るのが見えた)
  2. We saw him walking across the street.
    (彼が通りを横切っているのが見えた)
  3. Have you ever seen the boxer knocked down? 
    (そのボクサーがKOされるのを見たことがありますか?)

see の後に「何が+どうする/される」という文が変形され組み込まれていると考えるとよいでしょう。1では「Aが~する(=彼が横切る)」、2では「Aが~している[途中](=彼が横切っている)」、3では「Aが~される[受身](=ボクサーがKOされる)」という文がそれぞれ変形され組み込まれているとみなせます。

メモ② just in time

just in timeという表現について考えていきます。この表現の基本となる訳は、「ちょうど間に合って」です。

  1. We got to the station just in time to catch the train.
    (我々はちょうど列車に間に合う時間に駅に着いた) 
    [オーレックス]

ただし、「間に合う」という訳が不自然に感じられるような場合は、多少工夫した方がよいでしょう。「ちょうど~するのに間に合った」ということは、「ぎりぎりで[なんとか]~できた」ということになります。以下の例が参考になります。

  1. The train came to a jarring halt just in time to prevent an accident.
    (列車が急にガクンと停止し、かろうじて事故を免れた) 
  2. I grabbed his arm just in time. 
    すんでのところで彼の腕をつかんだ)
  3. I nearly fell over but recovered my balance just in time.
    (あやうくころびそうになったがぎりぎりの所でふみとどまった) 
    [新編 英和活用大辞典(研究社)](下線は引用者)

では、『アリス』本文に戻りましょう。

本文:she ran across the field after it, and was just in time to see it pop down a large rabbit-hole ~

「ウサギが大きなうさぎ穴にぴょんと飛び込むのを見るのにちょうど間に合った」では、すこし不自然に思えます(ウサギが穴に飛び込むことが予定されていた/アリスが事前に知っていたかのように聞こえる?)。そこで、動画内の訳例では、「ウサギが垣根の下の大きなうさぎ穴に飛び込むのがどうにか見えました」としています。

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第4回

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次回英文(第5回)
and, burning with curiosity, she ran across the field after it, and was just in time to see it pop down a large rabbit-hole under the hedge.

メモ① she had never before seen ~

had -ed形は、「過去のある時点より前の領域の出来事・事態が、その時点と何らかのつながりがある」ことを表します。本文の該当箇所は “had never before seen” になります。ここでは、アリスが「チョッキを着て、時計を持っているシロウサギ」を見た時点(=過去)より前に、そのような変わったウサギを「1度も見たこと[経験]がなかった(never)」ということ、つまり「初めて見た」ということが示されています。

メモ② a watch to take out of it

名詞の後にto do-原形を置いて説明を加える型について補足しておきます。次の3つの表現を見てください。

[名詞←説明] 名詞(A)←to do-原形
1. someone to help us (私たちを手伝ってくれる人)
2. something to eat (何か食べるもの)
3. time to get up (起きる時間)

それぞれ、「名詞(A)」と「to do-原形~のカタマリ」の関係性を考えてみましょう。1では、名詞(A)がto do-原形の「主語」にあたります。つまり、「someone(ある人)+が+手伝う」という関係が成り立っています。2では、to do-原形~のカタマリの中に「名詞の〈穴〉」が開いていて、そこを名詞(A)で埋めると意味が通るようになっています(参考:第1回ブログ メモ②)。ここでは、to eatの後に〈穴〉があり、そこにsomethingを入れると“eat something”という意味が通る表現ができます。2では、「something(あるもの)+を+食べる」という関係が成り立っているわけです。3は、1・2どちらにも当てはまらないパターンです。

[名詞←説明] 名詞(A)とto do-原形の関係
1. Aが主語 → someone to help us [someone が help(する)]
2. Aが〈穴〉を埋める → something to eat〈穴〉 [something を eat(する)]
3. その他 → time to get up (起きる時間)

注意したいのは、2の「名詞の〈穴〉」がある型です。この型を頭に入れた上で、『アリス』本文で用いられている表現について考えてみましょう。

本文:a watch to take out of it ← 構造と意味は?

ここで、“take out of it” を「ひとつながり」として見ると読み間違えます。takeの後に「名詞の〈穴〉」があることに気づくことができたでしょうか? この表現は、a watch to take〈穴〉out of it という構造になっています。take A out of B で「BからAを取り出す」という意味なので、take a watch out of itは「そこ(ポケット)から時計を取り出す」となります。

本文: a watch to take〈穴〉out of it ←  take a watch out of it (そこから時計を取り出す)

よってこの箇所は「そこ(チョッキのポケット)から取り出す時計」という意味になります。

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第3回

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次回英文(第4回)
but when the Rabbit actually took a watch out of its waistcoat-pocket, and looked at it, and then hurried on, Alice started to her feet, for it flashed across her mind that she had never before seen a rabbit with either a waistcoat-pocket, or a watch to take out of it,

メモ① I shall be late!

シロウサギの発言 “I shall be late!” で使用されている shall について補足をしておきます。shall には、「私、私たち」を主語にして「未来」を示す用法があります(I shall ~, we shall ~)。これは、一般にイギリス英語の用法とされます。注意点は以下の通りです。

[shallとwill] 英米ともshallは古風で、もったいぶった感じがするので、使われるのはwill、shallを合わせた全体の使用量の5%程度。〈英〉では一人称の平叙文の場合にshallを使うこともあるが、willを使う方がふつう。〈米〉では聖書や古い文献から引用する場合くらいにしかshallは使わない。
[ジーニアス]

上記の通り、現代の英語ではシロウサギが用いたような “shall” の使用は減少しています。ただし、『アリス』(1865年刊。英国の作品)を読む上では知っておく必要があります。

メモ② she thought it over

turn off A [A off](A(明かり・テレビなど)を消す)という表現を例に取って、「2つの形を持つ動詞表現(他動詞+副詞)」の使い方について見ていきます。この表現には「①turn off A (Aが「後」に置かれる)」と「②turn A off (Aが「間」に置かれる)」の2つの形があります。このタイプの表現では、Aが it のような「代名詞」のときに注意が必要になります。Aが「代名詞」の場合には、②の「間」に置く形を用いるのが原則です。

1.「電灯を消す」 → ① turn off the light ② turn the light off
2.「それ(it)を消す」 → ① - ② turn it off

本文で、think over A [A over](Aをよく考える) という表現が登場しました。Aが it という代名詞ですので、②の「間」に置く形、つまり think A over が用いられています。

本文:when she thought it over afterwards
(彼女があとでそのことをよく考えたとき)

メモ③ remarkableとout of the way

同じような意味を表すのに表現を変えるということは、しばしば見られます。今回は、remarkableとout of the wayがそれに該当します。辞書を引いておきましょう。

[OALD](下線は引用者)
(1) remarkable
unusual or surprising in a way that causes people to take notice

(2) out of the way
used in negative sentences to mean ‘unusual

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第2回

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次回英文(第3回)
There was nothing so very remarkable in that; nor did Alice think it so very much out of the way to hear the Rabbit say to itself, ‘Oh dear! Oh dear! I shall be late!’ (when she thought it over afterwards, it occurred to her that she ought to have wondered at this, but at the time it all seemed quite natural); 次回に続く

メモ① the hot day made her feel ~

動画内で説明した通り、“the hot day made her feel ~”をそのまま日本語にすると、「暑い日が彼女を~させた」となり不自然に感じられます。このようなタイプの文(「無生物主語構文」と呼ばれることが多いようです)について、いくつか参考になる本を挙げておきましょう。

1.『英文法解説 改訂三版』 江川泰一朗 (金子書房) pp.25-30
2.『英文翻訳術』 安西徹雄 (ちくま学芸文庫) pp.46-55
3.『英日翻訳の技術』 鍋島弘治郎 マイケル・ブルックス (くろしお出版) pp.71-90

ただし、英文の内容を理解するという助けとしては、多少不自然な日本語でも十分その役目を果たすでしょう。そのため、通常の読書では、意味が取れているならば、わざわざ日本語を整える作業は必要ないと思います。

メモ② 本文:~, when suddenly a White Rabbit ~

動画内で説明した、「and thenに近い意味で用いられるwhen」について辞書の記述を見ておきましょう(辞書からの引用については、用例・記号等を省略している場合があります)。

1.[ジーニアス] [and thenの意で用いるwhen] 
物語では、「過去進行形[過去完了形、be about to]+when…」の形でよく用いられる。and thenの意の関係副詞とも考えられ、前から訳していけばよい

George was talking to someone at the bar when she came in.
(ジョージがバーである人と話をしていたら彼女が入ってきた)

2.[ウィズダム][副詞節を導いて](…すると)その時、(…する)とすぐに… (1)通例過去進行形、状態動詞または過去完了形の主節の後で (2)when節の事柄は特に思いがけないこと

The train had just left the station when it suddenly stopped.
(列車が駅を離れたかと思うと急停車した) 

when以下の内容が「思いがけないこと」であるというポイントは押さえておきましょう。

次に、より一般的な使い方である、「~とき」を表すwhenと比較しておきましょう。

① ~ when … 「…とき~」 (基本的な使い方/when以下から訳す)

The phone rang when I was watching television.
(テレビを見ていたら電話が鳴った) [ジーニアス]

② ~ when … 「~そのとき…」 (今回のポイント/前から訳す)

He was having his Christmas dinner when the telephone rang.
(彼がクリスマスの夕食をしていたら電話が鳴った) [ウィズダム]

hardly ~ when … 「~するとすぐに…、~するかしないうちに…」という表現を学んだことがある方も多いかと思います。この表現で用いられるwhenも今回見た使い方になります(→前から訳す)。

I had hardly finished my lunch when he arrived. 
(昼食が終わったか終わらないうちに彼がやってきた) [ウィズダム]

英語で読む『不思議の国のアリス』第1章 第1回

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次回英文(第2回)
So she was considering, in her own mind (as well as she could, for the hot day made her feel very sleepy and stupid), whether the pleasure of making a daisy-chain would be worth the trouble of getting up and picking the daisies, when suddenly a White Rabbit with pink eyes ran close by her.

メモ① bank

bankは「銀行」という意味でおなじみだと思いますが、第1回に登場したbankは「土手、(川)岸」という意味です。1つの単語には通常、複数の意味があるので注意が必要です。また、同じ綴りであっても、語源が別で、異なる意味を持つという場合もあります(→bank)。次の動画シリーズも活用してください → 【英単語プラス】 多義語・同形異義語

なお、「オックスフォードあたりを流れている川の両岸(banks)は水面より少し高くなっている程度」ということです(ルイス・キャロル 安井泉訳・注 『対訳・注解 不思議の国のアリス』 研究社 2017 p.12)。

メモ② the book her sister was reading

本文で登場した「名詞と説明」について、補足しておきます。まず、「型」と具体例をいくつか見ておきましょう。

[名詞←説明]  名詞(A)←主語+述語+〈穴〉
例1. the house he lived in 「彼が住んでいた家」
例2. the house he bought 「彼が買った家」
例3. the book I bought yesterday 「私が昨日買った本」

日本語と英語で語順が逆になっている点に注意しましょう。英語では、名詞(A)を説明する部分(名詞にかかる部分)である「主語+述語+〈穴〉」が名詞の後に置かれています。

〈穴〉という記号について説明します。これは、あるべき名詞が欠けている箇所を示しています。例1を見てください。通常、live inという表現の後には、“live in an apartment(アパートに住む)”、“live in Japan(日本に住む)”のように「名詞」が置かれます*。しかし、例1では “lived in” の後に名詞がありません。このように、あるべき名詞が欠けていることを、ここでは「〈穴〉がある」と呼んでいます。

「名詞(A)+主語+述語+〈穴〉」という型が当てはまる場合は、この〈穴〉を名詞(A)で埋めると意味の通る英文ができます。その英文を「元になる文」と呼ぶことにします。例1の “the house he lived in 〈穴〉” については、名詞(the house)で〈穴〉を埋めると、he lived in the house(彼はその家に住んでいた)という「(意味の通る)元になる文」ができます。では、例2・3についても同じように、〈穴〉と「元になる文」を確認しておきましょう。

例2. the house he bought 〈穴〉→元になる文 he bought the house(彼は家を買った)
例3. the book I bought 〈穴〉 yesterday →元になる文 I bought the book yesterday(私は昨日本を買った)

本文で登場した “the book her sister was reading” はこの型に当てはまります。was readingの後に〈穴〉があり、そこに名詞the bookを入れることができます。〈穴〉を埋めた「元になる文」は、her sister was reading the book(彼女の姉は本を読んでいた)となります。

英文を読んでいるとよく登場する型なので慣れておきましょう。名詞の直後に「主語+述語」が続いているようであれば、この型が当てはまる可能性が非常に高いと考えてください。

*live inが「住み込みで働く」という意味で用いられている場合は、inの後に名詞は置かれません。ただし、live in 名詞(~に住む)の方がよく用いられる表現です。

メモ③ had peeped into ~

had -ed形は、「過去のある時点より前の領域の出来事・事態が、その時点と何らかのつながりがある」ことを表します。本文の該当箇所は “had peeped into” です。

本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book ~

冒頭で、「アリスは退屈し始めていた(Alice was beginning to get ~)」という過去のシーンが描かれています。それに続く文の “had peeped into ~(=had -ed形)”は、その冒頭の時点よりも前に「1、2度本をのぞき込んだ」ということを示しています。アリスには「何もすることがなかった」とありますが、「本(を読む)」という案はそのときすでに検討済み(で不採用)だったわけです。

メモ④ what is the use of a book~?

アリスの最初の発言は “what is the use of ~?(~は何の役に立つの?)” というものでした。この文は、疑問文の形をしていますが「答え」を求めているのではなく、「~は役に立たない」ということを反語的に述べたものです。このような表現は「修辞疑問(rhetorical question)」と呼ばれています。

rhetorical question [文](修辞疑問) 形式上は疑問文だが、意味上は平叙文に等しい疑問文。すなわち、自分の述べたいことを反語的に疑問文の形で表したもの。例えば、Who knows? (=No one knows.) / Who does not know? (=Everyone knows.)など。 
寺澤芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社 2002 p.569

なお、このuseは名詞(発音注意 /juːs/)で「有用(性)、役立つこと、効用」という意味です。この名詞useを用いた、「It is no use do-ing形/There is no use (in) do-ing形 (~してもむだだ)」という表現が今後、『アリス』本文で登場します。ここで予習しておきましょう。

メモ⑤【発展】【△】 ‘and what is the use of ~’ の and

動画第1回の英文には2つのandが登場します。1つ目のand(=and of having ~)は動画内で解説した通り、A and Bという形で文法的に対等なものをつなぐ働きをしています。こちらは、andの基本的な使い方です。それに対して、2つ目のand(=‘and what is ~)は見たところ別の使い方をしているようです。こちらのandはどのような用法なのでしょうか? この問題を考える上で、以下が参考になります。

andの機能といえば、関連する複数の物や事柄を並べる、前件に何かを付け加えるというものがまず思い浮かぶ。しかし、andが談話の流れの転換点になることがある。たとえば、物語を語る際に、セリフ(直接話法)から地の文へ、あるいは地の文からセリフ(直接話法)へと転換する時にandが用いられる。*
松尾文子 「日本語では表現されない談話標識and」 『梅光言語文化研究』 (2) 2011 p.11

ここで、『アリス』本文に戻ってみましょう。

本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’

問題にしている2つ目のandは、冒頭から続く「地の文」が終わり(Alice was ~ in it)、アリスのセリフ(ここでは「心の中のセリフ」)が始まるところで用いられています。これは、上記[引用]にある「地の文からセリフ(直接話法)へと転換する」時に用いられるandと考えられます。

*松尾(2015)では、このandが「語りにおけるand①」「語りにおけるand②」とさらに細かく分類されています。詳細は、松尾文子・廣瀬浩三・西川眞由美(編著) 『英語 談話標識用法辞典』 研究社 2015 pp.175-176を参照。

英語で読む『不思議の国のアリス』

こちらは、動画「英語で読む 不思議の国のアリス 第1章」の製作者によるブログです。動画内容に関する補足説明、参考図書の紹介や引用が主な内容です。

動画では、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を原文で少しずつ読んでいきます。構成は以下のようになっています。

1.はじめに 2.原文を読んでみる 3.カタマリごとに意味をつかむ 4.文構造・表現を確認する 5.左から右に読む練習をする 6.もう一度原文を読む

製作にあたって参考にした書籍・辞書の中で主なものを挙げておきます(より詳細なリストは最終回に掲載する予定です)。

参考図書リスト
1.“Alice’s Adventures in Wonderland and Through the looking-Glass” Lewis Carroll  (OUP)
2.『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル 河合祥一郎訳 (角川文庫)
3.『対訳・注解 不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル 安井泉訳・注 (研究社)
4.『「不思議の国のアリス」を英語で読む』 別宮貞徳 (ちくま学芸文庫)
5.『詳注アリス 完全決定版』 マーティン・ガードナー ルイス・キャロル マーク・バースタイン 高山宏訳 (亜紀書房)

辞書と略号
6.『ジーニアス英和辞典 第5版』(大修館書店) →[ジーニアス]
7.『ウィズダム英和辞典 第4版』(三省堂) →[ウィズダム]

8.『オーレックス英和辞典 第2版』(旺文社) →[オーレックス]
9.Longman Dictionary of Contemporary English 5th ed. (Longman) →[LDOCE]
10.Oxford Advanced Learner’s Dictionary 8th ed. (OUP) →[OALD]

以降、『アリス』から引用した英文(1)には「本文」という印を、辞書から引用した英文(6~10)には上記の「略号」をつけることにします。

今後のブログには、「動画へのリンク、文法・語法等についてのメモ、次回の動画で扱う英文」を掲載していきます。「メモ」が発展的な内容の場合は【発展】という印をつけています(難しいと感じたら読み飛ばしてもかまいません)。また、英文の解釈、文法・語法の解説について動画製作者がはっきりと断言できないような内容を含む「メモ」については【△】の印をつけています。

動画に関して、先にいくつか断っておきます。動画内で、英文を意味の「カタマリ」で区切っていますが、あくまで、一つの例と考えてください。正しい唯一の区切り方があるわけではありません。また、各回の最後で「訳例」を示していますが、これは日本語としての読みやすさを優先しています。そのため解説部分で示した訳語から変更している箇所があります。

最後に、第1回の英文を掲載しておきます。

英語で読む 不思議の国のアリス 第1章 第1回

Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’