次回英文(第9回) First, she tried to look down and make out what she was coming to, but it was too dark to see anything: then she looked at the sides of the well, and noticed that they were filled with cupboards and book-shelves: here and there she saw maps and pictures hung upon pegs.
wellは「よく、上手に」という「副詞」でおなじみでしょう(例:She sings well. 彼女は歌がうまい)。しかし、本文のwellは “the well was ~” とtheが前に付いて、wasが後に続いていますので、「副詞」ではなく「名詞」と考えられます(主語になっています)。そこで、辞書でwellを調べると、名詞で「井戸」という意味が載っています。「井戸がとても深かった」となり、文の意味も通ります。 1つの単語には通常、複数の意味があるので注意が必要です。また、同じ綴りであっても、語源が別で、異なる意味を持つという場合もあります。語彙力向上に、こちらの動画のシリーズも活用してください → 【英単語プラス】 多義語・同形異義語 (なお、wellについては、第7回にa very deep well「とても深い井戸」という表現が登場しています)
次回英文(第8回) Either the well was very deep, or she fell very slowly, for she had plenty of time as she went down to look about her, and to wonder what was going to happen next.
She looked at herself in the mirror. (彼女は鏡に自分の姿を映して見た) [オーレックス]
He seated himself beside her. (彼は彼女のそばに着席した) [ウィズダム]
1に関しては、「自分(自身)を見た」となりますが、2は「自分自身」を訳語に入れると不自然になります。動詞seatは「~を座らせる」という意味ですが、seat oneselfだと「座る」となります。このように「自分自身」が訳語に現れないタイプの表現をいくつか見ておきましょう。 □ enjoy oneself 「楽しむ」 □ help oneself to ~ 「~を自由にとって食べる[飲む]」 □ hurt oneself 「けがをする」
I enjoyed myself at the party. (パーティーで楽しく過ごした) [オーレックス] Help yourself to the cookies. (クッキーを自由に取って食べてください) [新編 英和活用大辞典(研究社)] He fell down and hurt himself. (彼はころんでけがをした) [ジーニアス]
以下は、『アリス』の1章に登場する表現です。 □ say to oneself ~ 「~と心の中で思う」(場合によっては「ひとりごとを言う」) □ find oneself +場所[副詞相当表現] 「〈予期せぬ場所〉にいると気づく」
I said to myself, “This is awful.” (「これはひどい」と私は思った) [ウィズダム] I found myself in the midst of a forest. (気がつくと森の真ん中にいた) [ウィズダム]
次回英文(第7回) The rabbit-hole went straight on like a tunnel for some way, and then dipped suddenly down, so suddenly that Alice had not a moment to think about stopping herself before she found herself falling down what seemed to be a very deep well.
“be動詞 to do-原形”という表現について補足をしておきます。これは「助動詞 do-原形」と似た働きをする表現で、様々な使い方があります。 まず、“to do-原形”が持つ「未来(の行為)に向かう」という基本性質を頭に入れましょう。そうすると、“be動詞 to do-原形”が「(これ[それ]から)~する(ことになっている)」という意味になることが理解できます。そこを核と捉え、様々な意味の広がりを見ていくとよいでしょう。では、辞書を引いてみます(読みやすいように、用例等は省略しています)。
□ be to do-原形
① ジーニアス a. [予定]~することになっている(話し言葉ではwillの方がふつう) b. [義務]~すべきだ(shouldの方がふつう) c. [可能][通例否定文で]~できる(can[could]の方がふつう/to be doneを従える) d [運命][通例過去時制で]~する運命になっている(wouldの方がふつう) e. [意図][条件節で]~したいと思うなら(be going toの方がふつう/帰結節はmustなどが用いられる)
② ウィズダム a. [予定]~する予定である(公式の予定・約束などで好まれる) b. [義務・指示]~すべきである(公式の義務・指示などで好まれる/否定文は禁止を意味する) c. [意図][条件節で]~したい、~するつもりである d. [可能][通例否定文・条件節で]~できる(通例受身形不定詞と共に) e. [運命][通例過去形で]~する運命だ
③ OALD a. [be to do something] used to say what must or should be done b. [be to do something] used to say what is arranged to happen c. [be to do something] used to say what happened later d. [be not, never, etc. to be done] used to say what could not or did not happen (③の記号a~dは引用者によるものです。なお、ここで用いられている “used to say ~” は「~を言うのに使われる」ということを表しています。used to do-原形「以前~した[だった]」という表現ではないので注意しましょう)
本文:In another moment down went Alice after it, never once considering how in the world she was to get out again.
文意を考えると「可能(~できる)」で取るのがよさそうですが、上記の各辞書での記述が気になります。「可能」を示す使い方について、これら3つの辞書は、ほぼ同じ説明をしています(→否定+toの後は「受身」)。ジーニアスは「c. 通例否定文で/to be doneを従える」、ウィズダムは「d. 通例否定文・条件節で/通例受身不定詞と共に」、OALDは「d. be not, never, etc. to be done」と記述しています。このような特徴は、『アリス』本文の使い方には当てはまらないようです。
次に、LDOCEを調べてみましょう。
④ LDOCE (下線は引用者) [be to do something] 〈formal〉 a. used to talk about arrangements for the future b. used to give an order or to tell someone about a rule c. used to say or ask what someone should do or what should happen d. used to ask how something can be done How are we to get out of the present mess? (dの用例)
注目すべきは (d) です。「あることがどのようになされ得るのか[どうやったらできるのか]を尋ねるのに用いられる」とあります。本文の “consider(ing) how in the world she was to get out again” はこの用法がうまく当てはまりそうです。意味は「いったいどのようにして彼女が再び出られるのかを考える」となります。 ①~③の辞書で説明されている「可能」とは、異なる種類の「可能(どうやったら可能なのかを尋ねるときに用いられる)」と考えると、『アリス』本文の “be動詞 to do-原形” はうまく解釈できそうです。
it は「ウサギ」を指しています。上記は「ウサギが大きなうさぎ穴に飛び込むのを見る」という意味です。この see の使い方を一般化すると「see A do-原形(Aが~するのを見る[~するのが見える])」となります。他の形と合わせて整理しておきましょう。
see A do-原形 「Aが~するのを見る[するのが見える]」
see A do-ing形 「Aが~しているのを見る[しているのが見える]」 【途中】
see A -ed形 「Aが~されるのを見る[されるのが見える]」 【受身】
用例を見ておきましょう(英文は[ジーニアス])
We saw him walk across the street. (彼が通りを横切るのが見えた)
We saw him walking across the street. (彼が通りを横切っているのが見えた)
Have you ever seen the boxer knocked down? (そのボクサーがKOされるのを見たことがありますか?)
see の後に「何が+どうする/される」という文が変形され組み込まれていると考えるとよいでしょう。1では「Aが~する(=彼が横切る)」、2では「Aが~している[途中](=彼が横切っている)」、3では「Aが~される[受身](=ボクサーがKOされる)」という文がそれぞれ変形され組み込まれているとみなせます。
メモ② just in time
just in timeという表現について考えていきます。この表現の基本となる訳は、「ちょうど間に合って」です。
We got to the station just in time to catch the train. (我々はちょうど列車に間に合う時間に駅に着いた) [オーレックス]
had -ed形は、「過去のある時点より前の領域の出来事・事態が、その時点と何らかのつながりがある」ことを表します。本文の該当箇所は “had never before seen” になります。ここでは、アリスが「チョッキを着て、時計を持っているシロウサギ」を見た時点(=過去)より前に、そのような変わったウサギを「1度も見たこと[経験]がなかった(never)」ということ、つまり「初めて見た」ということが示されています。
[名詞←説明] 名詞(A)とto do-原形の関係 1. Aが主語 → someone to help us [someone が help(する)] 2. Aが〈穴〉を埋める → something to eat〈穴〉 [something を eat(する)] 3. その他 → time to get up (起きる時間)
ここで、“take out of it” を「ひとつながり」として見ると読み間違えます。takeの後に「名詞の〈穴〉」があることに気づくことができたでしょうか? この表現は、a watch to take〈穴〉out of it という構造になっています。take A out of B で「BからAを取り出す」という意味なので、take a watch out of itは「そこ(ポケット)から時計を取り出す」となります。
本文: a watch to take〈穴〉out of it ← take a watch out of it (そこから時計を取り出す)
次回英文(第4回) but when the Rabbit actually took a watch out of its waistcoat-pocket, and looked at it, and then hurried on, Alice started to her feet, for it flashed across her mind that she had never before seen a rabbit with either a waistcoat-pocket, or a watch to take out of it,
turn off A [A off](A(明かり・テレビなど)を消す)という表現を例に取って、「2つの形を持つ動詞表現(他動詞+副詞)」の使い方について見ていきます。この表現には「①turn off A (Aが「後」に置かれる)」と「②turn A off (Aが「間」に置かれる)」の2つの形があります。このタイプの表現では、Aが it のような「代名詞」のときに注意が必要になります。Aが「代名詞」の場合には、②の「間」に置く形を用いるのが原則です。
1.「電灯を消す」 → ① turn off the light ② turn the light off 2.「それ(it)を消す」 → ① - ② turn it off
本文で、think over A [A over](Aをよく考える) という表現が登場しました。Aが it という代名詞ですので、②の「間」に置く形、つまり think A over が用いられています。
本文:when she thought it over afterwards (彼女があとでそのことをよく考えたとき)
メモ③ remarkableとout of the way
同じような意味を表すのに表現を変えるということは、しばしば見られます。今回は、remarkableとout of the wayがそれに該当します。辞書を引いておきましょう。
[OALD](下線は引用者) (1) remarkable unusual or surprising in a way that causes people to take notice
(2) out of the way used in negative sentences to mean ‘unusual’
次回英文(第3回) There was nothing so very remarkable in that; nor did Alice think it so very much out of the way to hear the Rabbit say to itself, ‘Oh dear! Oh dear! I shall be late!’ (when she thought it over afterwards, it occurred to her that she ought to have wondered at this, but at the time it all seemed quite natural); 次回に続く
次回英文(第2回) So she was considering, in her own mind (as well as she could, for the hot day made her feel very sleepy and stupid), whether the pleasure of making a daisy-chain would be worth the trouble of getting up and picking the daisies, when suddenly a White Rabbit with pink eyes ran close by her.
〈穴〉という記号について説明します。これは、あるべき名詞が欠けている箇所を示しています。例1を見てください。通常、live inという表現の後には、“live in an apartment(アパートに住む)”、“live in Japan(日本に住む)”のように「名詞」が置かれます*。しかし、例1では “lived in” の後に名詞がありません。このように、あるべき名詞が欠けていることを、ここでは「〈穴〉がある」と呼んでいます。
「名詞(A)+主語+述語+〈穴〉」という型が当てはまる場合は、この〈穴〉を名詞(A)で埋めると意味の通る英文ができます。その英文を「元になる文」と呼ぶことにします。例1の “the house he lived in 〈穴〉” については、名詞(the house)で〈穴〉を埋めると、he lived in the house(彼はその家に住んでいた)という「(意味の通る)元になる文」ができます。では、例2・3についても同じように、〈穴〉と「元になる文」を確認しておきましょう。
例2. the house he bought 〈穴〉→元になる文 he bought the house(彼は家を買った) 例3. the book I bought 〈穴〉 yesterday →元になる文 I bought the book yesterday(私は昨日本を買った)
本文で登場した “the book her sister was reading” はこの型に当てはまります。was readingの後に〈穴〉があり、そこに名詞the bookを入れることができます。〈穴〉を埋めた「元になる文」は、her sister was reading the book(彼女の姉は本を読んでいた)となります。
*live inが「住み込みで働く」という意味で用いられている場合は、inの後に名詞は置かれません。ただし、live in 名詞(~に住む)の方がよく用いられる表現です。
メモ③ had peeped into ~
had -ed形は、「過去のある時点より前の領域の出来事・事態が、その時点と何らかのつながりがある」ことを表します。本文の該当箇所は “had peeped into” です。
本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book ~
冒頭で、「アリスは退屈し始めていた(Alice was beginning to get ~)」という過去のシーンが描かれています。それに続く文の “had peeped into ~(=had -ed形)”は、その冒頭の時点よりも前に「1、2度本をのぞき込んだ」ということを示しています。アリスには「何もすることがなかった」とありますが、「本(を読む)」という案はそのときすでに検討済み(で不採用)だったわけです。
メモ④ what is the use of a book~?
アリスの最初の発言は “what is the use of ~?(~は何の役に立つの?)” というものでした。この文は、疑問文の形をしていますが「答え」を求めているのではなく、「~は役に立たない」ということを反語的に述べたものです。このような表現は「修辞疑問(rhetorical question)」と呼ばれています。
rhetorical question [文](修辞疑問) 形式上は疑問文だが、意味上は平叙文に等しい疑問文。すなわち、自分の述べたいことを反語的に疑問文の形で表したもの。例えば、Who knows? (=No one knows.) / Who does not know? (=Everyone knows.)など。 寺澤芳雄(編) 『英語学要語辞典』 研究社 2002 p.569
なお、このuseは名詞(発音注意 /juːs/)で「有用(性)、役立つこと、効用」という意味です。この名詞useを用いた、「It is no use do-ing形/There is no use (in) do-ing形 (~してもむだだ)」という表現が今後、『アリス』本文で登場します。ここで予習しておきましょう。
メモ⑤【発展】【△】 ‘and what is the use of ~’ の and
動画第1回の英文には2つのandが登場します。1つ目のand(=and of having ~)は動画内で解説した通り、A and Bという形で文法的に対等なものをつなぐ働きをしています。こちらは、andの基本的な使い方です。それに対して、2つ目のand(=‘and what is ~)は見たところ別の使い方をしているようです。こちらのandはどのような用法なのでしょうか? この問題を考える上で、以下が参考になります。
本文:Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’
問題にしている2つ目のandは、冒頭から続く「地の文」が終わり(Alice was ~ in it)、アリスのセリフ(ここでは「心の中のセリフ」)が始まるところで用いられています。これは、上記[引用]にある「地の文からセリフ(直接話法)へと転換する」時に用いられるandと考えられます。
Alice was beginning to get very tired of sitting by her sister on the bank, and of having nothing to do: once or twice she had peeped into the book her sister was reading, but it had no pictures or conversations in it, ‘and what is the use of a book,’ thought Alice, ‘without pictures or conversations?’